記憶のかけら ~ 柊家旅館 ~


ある日の整理整頓中、思わぬものが顔を出してくれました。
京都市中京区にございます老舗旅館「柊家」で頂戴した、輪島塗のお箸でございます。

もう二十数年以上も前の話です。
あるクレジットカード会社が、会員限定の祇園祭りツアーを企画しました。
二泊三日の内容には何とも優雅な企画が盛り沢山で、特に「柊家旅館」での一泊宿泊は当時としては珍しい事でございました。
現在と違い、ご贔屓様の紹介がないと宿泊は叶いません。
インテリアの仕事をはじめて3年目、好奇心いっぱいの女子は当時の先輩の教えのひとつ、「一流になるためには一流を知れ」を飛躍解釈し迷わず申し込みをしたのです。

「相見様喜んで下さい。あなた様同様おひとり様でご参加を希望されている女性の方が、柊家旅館での相部屋を快諾下さいました。」
電話の受話器の向こうから、旅行代理店の担当者さんが満足そうにご連絡を下さいました。
ツアーに申し込んだものの、これまた現在と違い一室2名以上でなければ宿泊は叶いません。
私のようにひとり参加の方が現れて、相部屋を受け入れて頂ければツアー参加が叶う状況でした。
当時「おひとりさま」はまだまだ変わった女性扱いで、「そんな人いるかなぁ」とドキドキしながら連絡を待っておりました。
しかし、有り難いことに「おひとりさま」が現れて下さいました。

そしてツアー1日目、紹介された女性は50才を越えた品の良いどこか寂しげなご婦人でしたが、その時点で私に強い緊張感が走りました。
その方の持つ独特の誇り高い雰囲気は、当時の私はまだ受け入れらるものではございませんでした。
ちなみに、他の参加者様はご夫婦の方ばかりでございました。

お玄関先から指定のお部屋に専任の仲居さんが案内くださり、ご説明などもして頂きました。
ところが、ご説明を終え退出するため出入口まで近づいた仲居さんは、なかなか出て行かれません。
不自然な「間」の後、ようやく諦めの表情で出て行かれたのです。
すると「こうゆうツアーでも、お心付けは必要みたいねぇ。」と、ご婦人が仰って下さいました。
心の中で私は「あぁ!」と納得しました。
急いで財布を取り出したところ、「あなたはいいわ、ここは私が出しますから。」とスマートに懐紙を出されいくらかお包みになりました。
私はほんの少し茶道を習っておりましたが、懐紙がお心付けを包むのにも有効という事に感動してしまいました。
懐紙はお菓子の受け皿代わりは勿論の事、メモ用紙の代わりにもなる素晴らしいアイテムです。
この日をきっかけに、懐紙は私の日常アイテムのひとつとなったのです。
苦手なタイプのご婦人でしたが、この方でなければ大恥じをかいていたと思います。


しかし、緊張感はなかなか拭えず、お部屋の様子やお食事の内容、お風呂を利用したのかさえも思い出せません。
お食事に関しては作法が気になって、味わうゆとりもなかったのでしょうね。
振り返りますと、相当緊張していたのだと改めて感じます(笑)。

ただ、十数年後に八坂神社近くの旅館に宿泊したとき、自然にお心付けを渡す事が出来たのはご一緒下さったご婦人のお陰です。
飲食会社が営む新しいタイプの旅館ですが、こだわりある美しい旅館です。
お心付けを渡したところチェックアウトの折りに、「お心付けを頂戴しありがとうございました。これはお礼でございます。」と、柚子を使った千枚漬けをお土産にくださいました。
お渡しくださった方の表情がとても和やかで、嬉しくてたまりませんでした。

もうすぐ私は50才を越えてしまいます。
このタイミングで忘れていた記憶のかけらが顔を出し、ご一緒下さったご婦人の年齢になっている自分自身を思いますと、「ご一緒して下さり、ありがとうございました。」と思わずにはいられません。
現在「柊家旅館」はおひとりでも宿泊は可能ですが、次のご縁が叶うなら気の置けない方とご一緒して、「柊家旅館」のこだわりである「来者如帰(らいしゃにょき)」をじんわり分かち合えたらと願っております。


※「来者如帰(来たる者 帰るが如し)」・・・わが家に帰ってきたようにくつろいでいただき、主(あるじ)が帰ってきたようにお迎えしたい。















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